道草が青くなり始めて、目に見えて春が近づいてきた。犬と一緒に家の周りを歩くと、いろいろな草が土の下から顔だけを出して、芽吹くタイミングを見計らっている。まだ三寒四温の日々だから、陽気に浮かれて芽吹いてしまうと次の日は寒の戻りがあったりするので、慎重に様子をうかがっているらしい。
犬のお土産を始末するために土を掘ると、土の中には草の根っこが白く太く息づいていて、地上よりも一足先に準備万端という様子。立春、春分などの二十四節気を、さらに5日づつの初候・次候・末候にわけた七十二候という季節の表し方の中に、「土脉潤起」(どみゃくうるおいをおこす)という候が雨水の初候(二月十八日~二十二日頃)にあって、そのころからどうやら土の中は賑やかになり始めるらしい。
この七十二候は動物や植物の動き、気象の現象などを漢文で表わしていて、なかなか面白い。ちなみに3月17日は啓蟄の末候で、「菜虫化蝶」(なむしちょうとけす)。これは字の通りなのでわかりやすい。20日から二十四節気が春分になり、七十二候は「雀始巣」(すずめはじめてすくう)になる。青虫が蝶になるのもスズメが賑やかになるのも、この信州ではもう少し先の話だけれど、この季節の基準はおそらく江戸にあるのだろうから、25日からの「桜始開」(さくらはじめてひらく)はぴたりと時期が一致しているのだ。
この七十二候は、二十四節気とともに古代中国で考案されたのだそうだ。しかし、中国の暦には「キジが海に入って大ハマグリになる」なんていうSFもどきの候があったりしたので、日本に入ってから江戸時代までに大分改訂されたらしい。中国の暦もいかにも大陸的で面白くて、民族性の違いを感じてしまう。
七十二候の表現を読むと、昔の人たちは生活がいかに自然と近しかったかがよく解る。いろいろ忘れられてしまったことの中からこの七十二候も掘り出して磨き直したら、今の世の中でもきっとよく光るだろう。