水の惑星 ①
静岡の沼津市と三島市にはさまれた清水町という小さな町に、柿田川という世界に名だたるすごい川がある。梅雨が明けたばかりの連休に、一日をかけて出かけてきた。
天下の国道1号線からわずか数十メートルの谷間より、一日当たり100万トンというとてつもない量の清流が湧き出している。そこから天竜川ほどの川がいきなり始まって、わずか1.2km先でもう狩野川に合流し、さらに3kmほどで駿河湾に注ぎ込んでしまう。いくつもの細い沢を合流しながら太い流れとなって海に注ぐという普通の川の流れ方からすると、常識破りのとても不思議な川なのである。
深い木立の中を水辺に下っていくと、クレソンやセリが密生する中から噴き上がるように水が湧き出している。くぼ地というくぼ地に泉があって、あるところは砂を吹き上げ、あるところは石の間から滲み出すように、そこかしこから絶え間なく水が湧き出している。そのたくさんの泉を合わせた膨大な水量が、街中の谷間からいきなり川が流れ出すという不思議な現象を作り出しているのだ。
柿田川の水源になっているのは、富士山に降り注ぐ雨と雪なのだそうだ。わずか数百年前まで噴火して溶岩を流れ出させていた富士山は、軽石のような水の浸透性がある地層が広がる巨大な浄水器のようなもので、水を通さない粘土層の上を流れ下った溶岩の層が、この海に近い地点まで富士山に降った水を、80日間かけてろ過しながら運んできて湧き出させているのだという。
湧水から川が流れ始めて500mほど下ったところの橋のそばに、短い柿田川で唯一のわずかな滝のような段差があって、そこを流れ落ちる水の色がその水質を表していた。普通の、それでも相当きれいな川の滝では、水の色は緑色に見えるものなのだけれど、この柿田川の滝の色は鮮やかな青色なのだ。その色の違いが何でなのかはわからないけれど、細かい網目のような溶岩層を80日もかけて潜り抜けてきた水の、クラスターなどという分子レベルの違いがあるのではないか、と思わずにはいられない美しさなのであった