今年は秋真っ盛りからいきなり冬に突入し、モズもさぞかし焦ったことでしょう。ヘビを一本まんま「はやにえ」にしたやつが我が家の近くではいたそうです。八百屋一家も冬の準備がまだ整わず、日曜日はモズの鳴き声に急かされるように薪を切っています。
ストーブのひと冬分の薪や焚き付け用の柴を確保し、寒い夜に思う存分に温まるには、手間と時間と体力が要ります。それを省略するには誰かに依頼するだけのお金が必要なわけで、なかなかの贅沢品といえます。そこで、時間とお金のどちらにも恵まれない八百屋は、秋が深まると週1日の休みはすべて薪の確保に費やすことになります。
薪を切っては積み上げていく作業は、単純なようでなかなか知恵の要る仕事です。同じ長さに切るための道具や仕掛け、それを効率よく動かすための段取りや配置。さらには切った薪を崩れないように積む場所や、隙間なくうまく積む方法、などなど。最近は車で走りながら、道すがらの納屋の脇に軒まで届くほどきれいに薪が積み上げられていると、思わず見とれてしまいます。
薪割りに汗をかくというシーンは、都会の人から見ると憧れのカントリーライフなのだそうです。あるアメリカの作家は「薪を割れ。二度温まれる」とも言ったそうです。しかし、毎日気が向いたときに薪を割るような余裕の生活を楽しんでいる人とは違い、一週間の疲れを腰に残したままの薪割りは一歩間違えば腰痛再発の危険と背中合わせだし、近くの山から担いできた柴を丸鋸で切ると全身おがくずだらけになってしまうし、月曜日の午後は店の裏で身体の痛みをこらえてひっそりとリハビリに励まざるを得ないのが、八百屋のカントリーライフの実態なのであります。 2002/11/26