私が住む地区では平日に雪が10cm以上積もると、朝5時半から各戸一名ずつが出て雪かきをすることになっている。先週はこの冬初めての出動がかかり、私も万全な防寒体制で暗闇の中をはせ参じようとすると、千切れんばかりに尻尾を振った約一匹の勘違い犬に出くわしてしまった。思えばいつも山に連れて行くときと同じ格好をしているのだから、ヤツが勘違いするのは当たり前なのだ。「悪いな、今日は違うんだよ」と言い聞かせても、手袋、帽子、長靴と山行き3点セットが揃っているのだから、犬が納得するわけがない。雪かきが終わるまでの小一時間、犬は周りの山にまで響き渡るような悲痛な声で、「キャヒヒン、キャヒヒン」と叫び続けていた。
雪かきを終え食事も済ませて窓の外を見ると、犬と目がばっちり合ってしまった。雪の中に座ってあきらめきれない顔でこちらを見上げている。前足を揃えて座り、じっと見つめられると、哀願されているような気がして困ってしまった。「う~ん弱ったな、あいつは山に連れて行ってください、と手をついてオレにお願いしているぞ」と、窓ごしに犬と目を合わせたまま呟くと、後ろで新聞を読んでいた妻は「そりゃ犬なんだからいつも手を合わせて座るのよ。この寒いのにでぇ~っと足を開いて座っている犬なんて居るわけがないでしょ」と言い、自ら「たれぱんだ」のようなでぇ~っとした格好をして見せるのであった。
わが愛すべき同居人たちは、なかなか身体表現がうまいのである。