6月のある日、へちまとアサガオの苗を持って店に現れた方がいらした。「苗を仕立てたのだけれど余ってしまったので、お客さんで育ててくれる人に差し上げてほしい」
いくつかの苗はもらわれていったが、かなりの苗は店に居ついてしまった。たかが苗とはいえ生き物である。しかもこれから夏に向けてツルを伸ばそうとしている未来のある生き物。ポットから引っこ抜いてしまえばタンタンに始末がつくのだが、そういうことができるようならこんな八百屋なんかやっていない。
空いていたプランターに植え、家からイボ竹を持ってきてネットを張り、いつの間にか育てることになってしまった。
7月になるとへちまはぐんぐんとツルを伸ばし、あっという間に6尺のイボ竹のてっぺんに至った。黄色い花を無数に開き、そのうちのいくつかに実が生ってぶらりぶらりと風に揺れた。
9月になって10月になって、11月になって葉が枯れた。へちまの実からタワシを作るには実を水につけて腐らせる必要があると聞いたが、臭いし手間が大変だと言うので放っておいた。
いい加減枯れた葉が汚らしくなってきたので、片付けようとへちまのツルをネットからはがすと、へちまの実の花つきが抜けて中から黒い種がポロポロとこぼれ落ちてきた。あわててざるに受けて全部の種を落としきると、へちまの実は皮をかぶっているものの中はすっかり繊維だけで、もうすぐにタワシとして使えるようになっていた。
それは捨てられるところを育ててあげた、捨て猫へちまからの思わぬお礼のようだったので、ありがたく風呂で使わせてもらうことにした。種もたくさんいただいてしまったが、来年こんなにたくさん育てられる場所がないのでちょっと困っている。