古本市をめぐるお話の続き◆そもそもこの企画は八重桜の花がひとつの主役になるものだったので、名前も「お花見古本市」となるはずだった。ところが、3月の異様なほどの暖かい日のおかげで、全国各地の桜の開花予報はすべて2週間ほど前進する見込みになっていた。お花見と言いながら葉桜ではちょっとまずい。今からわかっているのなら、なんとかハズレになる名前を変えてしまおう。そこで桜が咲いても散っても街を歩いてめぐることがこの企画の特徴なのだから、「岡谷街歩き古本市」と名付けることにした◆八重桜は文字通りの花ではあるけれど、CAMBIOからイルフ童画館へ向かう小路もレンガ造りの蔵や大きな味噌蔵があって、また捨てがたい落ち着いた街並みなのだ。そんな街の小路を歩くことはいまや酔狂の世界になっているが、街のこれからを考えるとゆっくりと歩くことに意味づけをすることができれば、街を歩く人は増えるに違いない。問題はそこに楽しみを感じてもらえるかどうかなのだ。人間が歩くスピードで見て何かを感じる道は、歩道のような整った道よりも目線に花が咲いて人の営みがある小路なのだと思う◆3軒に会場が分かれる上にそれぞれが特徴のある事業なので、各会場に合った品ぞろえをしてタイトルを付けることにした。最初の案では「おとなの本」、「おんなの本」、「こどもの本」だった。ところが「おとなの本」では勘違いをされる恐れがある、という意見が出された。たしかに世の中にはおとなの・・・と名乗るあやしい商売もある。でも、会場のたたずまいや品ぞろえからしてそれはあまりないだろう、という結論になった。われらが店は「おんなの本」というタイトルだったが「くらしの本」に変えた。おとな、こどもというカテゴリーからはおんなという言い方も良かったのだけれど、あまり対象を限定しない方が良いからだ◆古本市のアウトラインが決まると、さっそくポスターやチラシのデザインを進めることに。それにはデザインのセンスとイメージを描く腕が必要なのだが、専業のデザイナーに依頼できるほど予算はない。そこで、今年になってからお付き合いが始まった伊那の生産者Nさんに頼むことにした。彼が冬の間に出荷するドライハーブのラベルのデザインや名刺を見た時に、この人はデザイン系だと直感した。聞けば、やはり美大を出てグラフィックをやっていたという。いつか何かをお願いすることになるかもしれないと、こっそり引き出しに彼のタレントをしまっておいたら、さっそく出番が来てしまった。図々しくもカネがないことを理由に、チラシにNさんの野菜セットの広告を入れることを手間賃にしてもらうバーターを持ちかけたところポスターのデザインを快諾してくれた。春の畑作りで忙しい時期だったのに、何度手直しの依頼をしても嫌な顔一つしないで進めてくれ、広告業界にいたO氏の厳しい指摘にも頷いてイラストレータを操ってくれたNさんは、今回の古本市の陰の功労者だ。