今年の4月5月は厳しかった。御柱祭という超大イベントがあったおかげで、店の売り上げはさっぱりだった。御柱祭はすでに5回目なのだから影響を推し計って覚悟をしていたのだが、そんな覚悟など何の役にも立たなかった。もし来年までこの調子が続くなら、残念だけれど店を閉めようかと思う。
いつもなら五月連休を盛り上げるはずの古本市も、日程を4月の終わりに繰り上げざるを得ず、盛り上がりを欠いたまま大赤字を出してしまった。厳しいことがわかっていたなら1回休むなどの思い切った手を打つべきだった。見通しが甘かったことで、主催者としてみんなに迷惑をかけてしまった。
連休後に取り掛かったある事案では、店の自画像と将来像を書くことに難儀し、自分の店について語る言葉を十分に持ち合わせていなかったことに愕然とし、立て続けに明らかになった自分の不甲斐なさにメンタルは谷底に転げ落ちた。今は谷底で尻餅をついて、登り返すルートを見上げているところ。
数多くの失敗を起こしてきた経験のおかげで多少のことでは懲りないが、今回は今までとは違う言いようのない、薄いけれども拭いようのない黒い雲が自分の空を覆い尽くしている。目を瞑っても、どこからか通奏低音のような重苦しい雰囲気が漂ってくる。自分では拭いきれない霧のようなもの。
店の自画像には手を焼いたが、モヤモヤとした霧の原因は意外とわかりやすかった。歳だ、トシ。来年迎える還暦という節目が常に意識に中にあって、自分の中に棲む弱音の虫が「お前はもうトシなのだ」と耳元で囁くのだ。まだやりたいことがたくさんあるのに「10年経ったらもう70だよ」と。
実際に肉体の老化ははた目には隠しようがないし、実感することも多いのは確か。今だに30代で始めたスタイルで仕事をしているから、週の後半になるとカラダがきつい。最近は目の調子が悪くて、夜は連続で30分しか本が読めない。会話にも「あれだよ、ほら、あれ」ということがやたら多いし。
でも、今の自分にはやりたいこともやらねばならないことも山積みだ。頭のフタを開けてみると、次回古本市の組立て、モール開業の対策、商品構成の再構築、ウェブサイトリニューアルの構想、トレッキングツアーの年間構想、通年でのイベント計画、休業日の新設、夏休みのツアー立案、などなど。
やりたいことは希望だし、やらねばならないことはモチベーションの源だ。実現させようとするときになぜトシが気になるのかと言えば、認識できない老化が考え方を蝕んでいるのではないかという不安があるのだ。見かけや肉体の老化より考え方の老化はもっと見苦しいし、他人に迷惑をかけるから。
谷底には何度か落ちたけれど、落ちている最中よりはまだマシだ。これ以上落ちることはないのだから。あとはどうやって登り返すか。どうせなら同じところではなく、違うところに違う登り方で到達してみたい。すっかり身についたスタイルを思いっきり変えてみたい。ジジイにはなってたまるものか。