このところ量り売りの店を始めたいという方の来訪が続き、新聞社の取材もあり、量り売りについてお話しする機会が多くなりました。話しながら量り売りについて振り返ってみると、実は店としてのやり方はこの30年間、何も変わっていないことに気が付きました。始まりから今までずっと、土もの野菜と果物を中心に量り売りが続いてきたのです。思えばマイバッグも最初からお願いしてきたし。
野菜だけだった量り売りをお米や砂糖にまで広げたのは、野菜を量り売りで価格を表示するためにリ導入していた電子秤付きラベラーのリース代が高く、もっとこいつに仕事をさせないかんというケチな理由からでした。古道具屋からガラスのボトルを買ってきて、洗糖の30㎏袋を仕入れて量り売りにしたのが19年9月。それからレーズンや玄米、塩に広がり、ドライフルーツやナッツも始めた。
当時は量り売りがトレンドになりつつあるとはちっとも知らず、業務用の大きな袋で仕入れてボトルに移していました。その頃の雑言には「例えば、ひとり暮らしの人が大豆ミートのナゲットを3つだけ買えたら、今夜のおかずに初めて大豆ミートの唐揚げを作れるかも」などと書いていて、プラスティックの袋を減らすことだけでなく、好きなだけ必要なだけ買えることをメリットに謳っていました。
年が明けて東京に量り売り専門の卸が立ち上がり、すぐに取引を始めた頃にどうやらトレンド化しているのかもしれない、と気が付きます。海のプラスティック汚染が問題になり、脱プラが叫ばれるようになったのと同時期です。量り売りはプラスティックを減らす有効な手立てですが、トレンド化することで大きな解決方法であるかのような短絡したファッションになるのではないかと感じました。
この店はいささか鈍くさいけれど、オーガニックにしても量り売りにしても買い物袋のリユースやマイバッグのお願いにしても、スタイルとして最初から何も変わってはいません。モノを売るためにいろいろなアピールをしてきたけれど、根本的にはlivewith nature に括られるように、自然の中で周りの生き物と仲良く暮らしたいだけです。それが以前より理解されるようになってきたのかもしれない。
店を始めてから違う面でずっと貫いてきたのは、こんな店のあり方を売ることでした。モノを売るのではなく店を売る。商品を売ることで店のやり方を支持してもらう。曲がりなりにも30年続いてきたので支持されてきたと自認しています。その背景には経済中心主義へのアンチテーゼだったオーガニックをはじめとしたエッセンスが、今は逆に社会的な価値になってきたことがあると思うのです。