今年の秋も陽気は少しおかしいようで、9月の下旬に急に寒くなったと思ったら、10月はずいぶん暖かかった。リンゴのように寒さで色がつく果物には好都合だけれど、干し柿には大変な不都合らしく、毎年干し柿を作ってもらっている千曲市のMさんからは、今年は干し柿が作れないかもしれないという深刻な電話。まだ10月だというのに柿がどんどん熟してしまって、もう枝から落ち始めている。この暖かな陽気ではとても柿は干せないし、ぼやぼやしていると柿はみんな地面に落ちてしまう・・・。柿は9月の寒さですっかりと冬支度を始めてしまったようで、そういえば我が家の周りの柿も10月の割には色が濃いような気がする。
みかんが柿を食べるというのは変な話なのだけれど、みかんとは時々ここに登場する我が家の名犬みかんのこと。毎朝散歩するコースには柿の木がいくつかあるのだけれど、そのうちの一本の柿が甘柿で、みかんは毎朝1個柿をハグハグムシャムシャと食べてしまう。みかんがその柿は甘柿だと知ったのは、たまたま落ちていた柿の匂いを嗅いだらうまそうだったので、食べてみたら甘かったのだそうだ。飼い主オヤジはこのあたりの柿はみんな渋柿だとばかり思っていたので、みかんのおかげで意外な発見をしたわけだ。
まだ柿はほとんど枝についたままなので、みかんの口が届く地面に着きそうなほど低い枝の柿を食べようとしても、柿はしっかりと枝から離れず、みかんは悔しそうにオヤジの顔を見上げる。そこで、慈悲深い飼い主オヤジが1個だけ内緒で柿をもいで与えてやると、みかんはうれしそうにしばらくの間くわえて歩くのだけれど、やがてどうにもよだれが滝のように止まらなくなり、とうとう我慢が出来なくなって食べ始めてしまう。
ある日は意地悪な飼い主オヤジが、柿をもいでからポケットにしまって歩き始めると、みかんはポケットの柿がもう気になっちゃって気になっちゃって気になっちゃって気になっちゃって、とても前を向いて歩いてなんていられなくなってしまった。だからそれ以来、柿はもいだその場でみかんに与えてしまうことにした。
まだ柿は枝にたわわに実っている。柿の木の持ち主は畑にはめったに来ない。当分の間、毎朝柿を食べることができるという、みかんにとってはぜいたくな秋になのである。