草花が水を蓄え、力を溜め込む梅雨が終わり、一年の頂点になる夏が始まる。梅雨の森の中にはひっそりと静かに咲いている花が多かった。ぎらぎらの太陽の下ではなく、木陰のしっとりとした落ち葉の間で咲いている花は、どこか儚く、愛おしさを感じさせる。
強い日差しの下で咲く花には華麗な花が多いのに比べ、日陰に咲く花は白くて小さくて地味だ。
木の葉のシェードの下でしか生きていけない花。
ときどき漏れいずる日差しで十分満ち足りる花。
わたしはここでしか生きていけない。その無言のメッセージが、訪れた人間の気持ちに岩清水のようにしみ込んでくる。
そんな花に会うためには、汗をかいて山を歩かなくてはならない。そこでしか生きていけない花に会うことが、容易であってはならない。