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8月14日 信州~大阪~瀬戸大橋~高知市・・・その1
8月15日 高知市~土佐市~大野見村~窪川町・・・その2 〃 窪川町~沈下橋・・・その3 〃 沈下橋~西土佐村~中村市・・・その4 8月16日 中村市~土佐清水市~柏島・・・その5 〃 柏島~宿毛市・・・その6 8月17日 宿毛市~宇和島市~松山市・・・その7 八百屋一家は鍵を受け取ると、さっそくエレベーターで9階の和室に向かった。『うわぁ、エレベーターだよ』 『9階だって』 『ほんとにここに泊まるの?』 子供たちはうれしそうにしゃべりまくる。部屋に入ると白いシーツとカバーのついた布団が6組延べてある。それぞれが勝手に場所を決め、まず布団の上に大の字になる。『う~ん、昨日の水浸しから、今日は夢みたい・・・』杜里が叫ぶ。杜里が言うまでもなく、誰もがそう思った。オヤジは『3000円だって・・・、これで3000円だってよ・・・、へへへ・・・』と、ひとりで薄気味悪い笑い声を上げるのだった。 八百屋一家は布団の上で大の字になり、あまりの気持ちよさにそのまま寝込んでしまいそうになった。寝不足が三晩も続き、誰しもが疲れ始めていた。『道後温泉に行くまでひと眠りしようか・・・』と、佳代子がつぶやいた。それを聞いた嶺がガバッと立ち上がって言った。『オレはお城に行きたい!』 そうだった。宿が決まったら嶺の強い希望で、松山城に行くことになっていたのだ。時計はすでに4時を指そうとしている。急がなくては閉館になってしまう。 松山城は、市内の平地より高いこんもりとした山の上にある。城の北側にはケーブルカーも上っているが、八百屋一家は南側から歩いて上ることにした。うっそうとした照葉樹の森を、つづら折れの道が登っていく。5分も歩かないうちに体中から汗が噴出し、そのにおいを察知したやぶ蚊が四方から攻めてくる。城の入り口にたどり着くと、全身が汗だくになった。入場券売り場には用意よく、大型の扇風機が回っている。 天守閣から松山の街を見渡す。天気はうす曇。雨が降る気配はない。城に登る道にも、そんなに雨が降った形跡はなかった。松山ではそんなに雨が降らなかったのだろうか。はるか瀬戸内海に島が浮かぶ。オレたちは雨をめがけて突っ込んだようなものだったのだろうか。しかし、今はもういい。今夜は雨の心配が要らない。雨の夜があって今日の宿があるのだ。 宿に戻り、風呂の支度をする。再びチンチン電車に乗り、道後温泉を目指すのだ。まさか道後温泉に来るとは予想していなかった佳代子は、急いで持参の旅雑誌で情報を仕込んでいる。 宿のそばの電停から、道後温泉行きのチンチン電車に乗る。またしても、さっきと同じような古い電車だ。道後温泉に向かうにはぴったりの風情だ。電車は交差点の信号で止まり、まっすぐな道で体をゆすって必死に走ったかと思うと、車輪をきしませて曲がり角を曲がった。造られてから50年を越える電車は、屋根にエアコンを載せ、まだまだ市民に頼りにされているようだ。 道後温泉の駅を下りると、さっき市内を走っていた『坊ちゃん列車』が止まっている。道路わきに湯が流れ、足浴をしている人がいる。その脇には大きなからくり時計。宿の名前いりの浴衣を着た人たちが、ぞろぞろと道後温泉本館に向かって歩いていく。どの宿も内湯を備えてあるのだが、ここへ来たらこの本館で風呂に入らなければ来た甲斐がない、という温泉なのだ。 道後温泉本館は、周りをホテルのビルに囲まれて、窮屈そうに建っていた。木造3階建ての立派な建物は、明治半ばの建築当初には周りを圧倒する威容であったに違いない。神社のような玄関で切符を買う。料金と切符を受け渡しする窓口の大理石が、磨り減ってくぼんでいる。そんなところにも100年の歴史が現れている。風呂は「神の湯」と「霊の湯」、それに休憩室の組み合わせで幾通りものコースがあるが、八百屋一家は一番安い「神の湯」の入浴だけにする。 「神の湯」は薄暗い照明の中に、漢文が彫られた湯釜から湯が湧き出ている。少し熱めの湯につかると、意外に湯船が深い。地元の人らしきおじさんがやってきて、湯釜の前で柏手を打つ。手を合わせて拝んだ後、湯釜に抱きつくように湧き出る湯を全身に浴びる。この温泉は「神の湯」というとおりに、神々が宿る温泉なのだという。ここでは温泉に入ること自体が、神を拝むことになるのだ。 「神の湯」の男湯は2室あるが、女湯は1室だけだ。その代わり、女湯の湯釜には道後温泉の守り神とされる、二人の神様の像が祀られている。 女湯で湯上りの髪を拭いていた杜里に、一人のおばあさんが話しかけた。『あなたはどこから来なさった?』 恥ずかしがり屋の杜里が下を向きながら『長野県・・・です』と小さな声で答えると、『ほう、それはずいぶんと遠くからようおいでたなもし』 おばあさんは腰を伸ばしながらうれしそうに言うと、自分も諏訪湖のそばの温泉に泊まったことがあること、間欠泉がすごい勢いでお湯を吹き上げて驚いたこと、などをゆっくりとした伊予弁で杜里に話した。 『おばあちゃんはな、腰が痛うてたまらんのじゃがここのお湯に浸かると、ほれ、こんなに伸びるんじゃ』すっかりとおばあさんの話に引きずりこまれた杜里は、困った顔で佳代子に助けを求めたが、佳代子は二人の話を聞きながらニコニコするだけだった。『お風呂の中の神様は拝んでこられたかな?』 おばあさんは杜里の顔を覗き込むように尋ねた。「お風呂の中の神様」とは何のことかわからず、きょとんとしている杜里に佳代子が助け舟を出した。『ほらお風呂の真ん中の、お湯が出るところにあったでしょ』 杜里は、湯釜の上に大きな神様と小さな神様の像が二つあったのを思い出して、おばあさんの顔を見て頷いた。 『大きな神様が小さな神様を手のひらに乗せて、温泉に入れてあげるとなあ・・・』おばあさんは二人の神様のいわれを、杜里に得々と語って聞かせた。それは大国主命が瀕死の少彦名命を手のひらに乗せて道後温泉につけると、たちまち癒えて玉の石の上舞ってみせた、というお話だった。 『神様の名前は覚えているかのう。大きな神様はオオクニヌシノミコト・・・、言ってごらん』 おばあさんは復習をするように、杜里に神様の名前を教えてくれた。『オオクニ・・・』杜里がいっぺんには覚えられないところを『・・・ヌシノミコト、ね』と佳代子が引き取る。 『小さな神様は、スクナヒコナノミコト・・・』 『スクナ・・・』 杜里も佳代子も言いよどんでいるところに、さらにしわくちゃなおばあさんが横から現れて、耳に手を当てて興味深そうに聞き耳を立てる。『ス・ク・ナ・ヒ・コ・ナ・・・』一言ずつ区切るようなおばあさんの言葉に合わせて、杜里がようやく神様の名前を言えるようになると、聞き耳を立てていたしわくちゃのおばあさんは、『うんうん』と一人で頷きながら扇風機の前に戻っていった。 一歩早く湯から上がった男組は湯屋から出て、前の道路で涼んでいた。とっぷりと暮れた夜空に道後温泉本館の神殿風の屋根が浮かぶ。この見上げるような圧倒的存在感が、「千と千尋の神隠し」の湯屋のモデルと噂される所以だろうか。オヤジは本館の建物を見上げながら、「千と千尋・・・」のさまざまなシーンを思い出していた。 湯上りの一家が商店街をうろつく。土産物屋にファンシーショップ。こんなところでは女と男、大人と子供でまったく興味がばらばらになる。佳代子は砥部焼の器にご執心。『こりゃ、買っちまうぜ、きっと・・・』 嶺とオヤジは店の外から佳代子の動きをチェックする。案の定、袋を手に提げた佳代子が店から現れると、嶺が『やっぱり・・・』と笑い転げる。 チンチン電車で市内に戻ろうと駅前に出ると、たくさんの人がからくり時計を取り囲んでいる。20:00。からくり時計が動き出す。坊ちゃんをテーマにした、明治時代の衣装をつけた人形が踊る。 道後温泉駅から、チンチン電車に乗る。暗い道路をがらがらの電車が走る。窓に八百屋一家の面々が映る。誰もしゃべらずに電車の揺れに身を任せている。オヤジはまた「千と千尋・・・」の一場面を思い出した。窓の外は水面ではあるまいか。隣に座っているのは「カオナシ」ではあるまいか・・・。運転士は『右に曲がりますのでご注意ください』と言ったのに、電車は左に曲がった。『次は市役所前・・・』と言ったのに、着いた駅は「県庁前」だった。『なんか、この電車、変じゃねえか・・・』「千と千尋・・・」の一場面と出来事がダブって、オヤジは不気味に思った。 再び「銀天街」に繰り出し、セルフのうどん屋で夕食。6人で約2000円。安い。 宿の部屋に戻る。今度は本当に寝てしまってもいい。『こんなホテルに泊まるなんて、初めてだよ・・・』 杜里はまだこの「えひめ共済会館」が夢のように思えるらしい。家族で宿に泊まるのは町内会の旅行以来だから、もう何年ぶりになるだろう。杜里も初めてではないのだが、もう忘れてしまったのだろうか。いや、それよりも昨夜と比べれば、誰もが夢のように思っているのではないだろうか。昨夜はつらい夜だった。だからこそ今夜は夢のようなのだ。 つづく
by organic-cambio
| 2010-08-18 17:01
| ビンボーツアー
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