我が家は畑の真ん中に立っているので、冬になると周りの畑で暮らしていたヒメネズミが寒さをしのぐために屋根裏にやってくる。夜になるとカリカリと柱をかじったり、タカタカタカと走り回ったりしている。ドブネズミのように家の中の食べ物を食い散らかすような悪さはしないけれど、明け方はときどき台所にやってきてカサコソと物音をたてていることがある。
何年か前はごろごろくつろいでいるときに出てきてしまい、みんなで追いかけたもののどこかに逃げ切られ。春になってから押し入れの中で干からびているヒメネズミを発見したこともあった。そんなか弱くてネズミという悪者のイメージからは程遠いヤツなので、われら小心者一家はあまり構わずに放っておくことにしていた。
だって、捕まえたら処分するの嫌だもんね。
ところが、ある師走の朝。夜明け前に起きて新聞を読んでいたおとっつぁんは、プラスチック用のゴミ箱の中でカサコソという音を聞きつけてしまった。深さ50cmほどある縦長のゴミ箱には、下の方に少ししかゴミが入っていなかった。そっと中をのぞくと「しまった!」という風情で頭を両手で覆い隠すヒメネズミを発見した。
こいつですね。
つぶあんの匂いに惹かれて入ってしまったものの、思ったよりも深くて出られなくなってしまったか? ごみ箱の中には「メイシーちゃんのお気に入り サクサクのドライワッフル」の袋が入っていたから、そのメイシーちゃんの絵に見とれて(メイシーちゃんはネズミである)落ちてしまったのかもしれない。
問題はこいつの処遇。我が家の小心者裁判員は、全員一致で河原に島流しの判決を下したので、おとっつぁんは車にごみ箱を積んで天竜川の河川敷まで連れて行き、ヒメネズミを放免してやった。ごみ箱をぶちまけておいて、また中身のゴミだけをを拾い集めていると、ジョギングで通りがかった人に不審そうな眼で見られてしまった。「ネズミを放しているだけですよ」とも言えないし・・・。
家に戻ると、まさか犬や猫のように帰巣本能を働かせて戻ってきたりはしないだろうな、とか、県道を渡るときに車に轢かれたりしないだろうか、などと、有り得もしないネズミの行く末を小心者一家は案じてしまうのであった。