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先週は木曾の漆器まつりに出かけた。
今は塩尻市になってしまった旧楢川村の平沢と奈良井を中心に、たくさんの漆工房が直接販売をする。 漆職人の話が聞けるかもしれないと微かな期待があって出かけて行った。 ふだんは人通りの少ない平沢の通りに、たくさんの人があふれている。 この鄙びた街にこれだけの人が集まるのは一年でこの時だけなのだろうな、と思いながら重要伝統的建築物保存地区に指定されている旧街道を、あちこちの店に寄りながら歩いて行った。 我が家の食卓では、ずいぶん前から飯椀と汁椀は木曾の漆器を使い続けてきた。 それぞれの個性や好みに合わせた器を選ぶのは、食べものの仕事をする私たちにとって、ひとつの楽しみでもある。 大皿や鉢は作家の焼き物が多く、銘々皿は型が揃うようにメーカーものが多い。 各自の食器と箸は、大きさもデザインも塗り方や仕上げ方も違うが、すべて木曾の漆器で揃えてきた。 昨年の漆器まつりに私は行くことができなかったが、長年使い続けてきたすり漆の飯椀の塗りが剥げて、ご飯がくっつくようになっていたのを見ていた娘たちが、父の日のプレゼントに飯椀を買ってきてくれた。 焼き物より軽く、それでいてしっかりとした質感がある漆の飯椀は手によく馴染む。 雑に扱うとすぐに剥げたり欠けたりするところも、生き物を扱うようでまた宜し。 漆職人の話を聞いてみたいと思ったのは、以前、輪島に出かけたときに聞いた漆職人の話が面白かったからだ。 どんな仕事でも一筋にやってきた人の話は、聞くとつい引き込まれるような魅力にあふれている。 輪島の職人に我が家では木曾の漆器を使っていると話すと、「木曾なんて…」とまるで蔑むような言い方をした。 金沢や京都のお大尽を相手に、金粉を使った豪華絢爛な蒔絵を施した器を作ってきた輪島から見れば、木曾なんて田舎の漆工芸に過ぎないのかもしれない。 でも、器が美術品としてではなく日常の食卓で使われるものなら、山ひとつ向こうで伝承されてきた漆器の方が私たちの生活には相応しい。 輪島ではひとつひとつの工程ごとに職人がいる分業制だが、木を選んで木地から削ってひとつの器を作る木曾では、職人ではなく漆作家と呼ぶ方が正しいのだろう。 漆器まつりでは国道沿いに大きな店を構える工房も、昔ながらの住まいや蔵を開放して漆器を所狭しと並べていた。 漆器を見るだけでなく、普段は入ることができない旧中山道沿いの町屋の造りも見ることができたのは収穫だった。 通りの構えは小さくても奥に入ると坪庭があり、大谷石でできた立派な蔵があったりする。 漆器は目ぼしいものが見つからず、通りも寂しくなってきたあたりでそろそろ戻ろうかとしたら、カミさんが「ここが巣山さんの…」と呟きながら古い町屋造りの工房に入っていった。 その工房は畳敷きの店に無造作に器が並べられていて、奥でおじいさんが足を投げ出して座っていた。 町屋特有の通り抜けに入ろうとすると、柱に文化財を示す銅板がかかっている。 どことなくタダモノではない雰囲気を感じて入っていくと、無造作に置いてある器がちょっと変わっていた。 皿も鉢も形が真ん丸ではなく、わずかに楕円形。 しかも材はニセアカシアだった。 河原や山の斜面に生えてたくさんの白い花をつける、ミツバチの蜜源としても知られる外来種の樹。 我が家では毎年ストーブの薪として使っている堅木のひとつではあるけれど、特定外来種として駆除の対象にもなってきた困った樹でもある。 それを器の材に使うとは…。 おじいさんに「なぜアカシアを使ったんですか?」と不遜な問いを投げると「なかなか面白い木だから」と言う。 「なぜ楕円なんですか?」としつこく訊くと「水をたっぷり吸わせて削って、さらに縛りを掛けてわざと楕円にするんだ。遊びだよ…」。 遊びというけれど、その木地の質感と塗りの重厚さが半端ではない。 吸い込まれるように町屋の中に上がり込むと、そこにはたくさんの作品が並べられていた。 その器もさることながら、私が思わず「あぁ…」とため息を漏らしたのは、たくさんの漆器を並べた座敷の開いた障子越しに見えた中庭の美しさだった。 畳を敷いた家の造りは、座った目線を基準に作られている。 だから庭に見とれた私は、その場で腰が抜けたように座り込んだ。 障子のぼんやりした明るさの向こうに広がるあざやかな青楓の緑、ギボシの葉、つつじの花、その向こうに建つ蔵のなまこ壁。 座り込んでいると奥さんが近づいてきて、庭と家の説明をしてくれた。 決して広くはないが、きちんとまとめられた庭にはそれぞれ由緒があって、木曾の五木をはじめとした謂れのある庭木が収められている。 樫の木と花梨が一緒にあるのは「お金はカシてもカリン」という縁起担ぎであるとか、石はすべて木曾川の河原から運んできたので、家を建て始めてから完成するまでに2~3年を要したとか。 建てられたのは昭和の初期なのでそう古くはないのだが、文化財に登録されているだけに随所に町屋の特徴がある家だった。 風呂場や居間(そんなところまで入り込んだのだ)に使われている建具のガラスもユラユラガラスだし、桟のきり方も工夫されていた。 家の中まで見せてもらい、庭を見ながらお茶や赤福もちまでいただき、すっかり贅沢な時間を過ごしてしまった。 せっかくなので、センの材を使った楕円の皿を一枚いただくことにする。 その工程を聞きながら、また木の使い方や漆の世界の奥深さを垣間見た。 おじいさんが足を投げ出して座っていたのは、きっとろくろを回すために膝を使いすぎたからだろう。 私たちにとってはかなり贅沢な皿ではあるが、きっと役に立つだろう。 その皿を使うたびに、立派な町屋造りと庭を思い出すだろう。
by organic-cambio
| 2015-06-16 16:03
| 店主の雑言
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