バブルの終焉とともに始まった店が25年も続くと、いろいろな波風が頭の上を通り過ぎていきました。電話とFAXの時代からメールとネットの時代を通り越して、今はもう一歩変わりつつある。そうなると、スタイルを変えないことがひとつのウリにもなってきます。さらなる波風に耐えるには、地域の中で地面に足を付けて立っていることは大きなアドバンテージになる、と最近は思うのです。
通信や流通はこれからもいくらだって変わっていくでしょう。日用品は買いに行かなくても自動的に届くようなシステムが実用化されています。買い物でも、必要に迫られて買うものと選びながら楽しんで買うものでは、買うスタイルが分化していくのでしょう。TVで宣伝されているマス商品と地元でしか流通していないレアな手作り品では、買うチャンネルも選ばれるようになってくるはずです。
日常的に食べものを選ぶという行動は、おそらく人間にしか与えられていない贅沢な行動です。見る触る匂いを嗅ぐなどの感覚的な欲望をすべて使って食べものを選ぶのは、日常的に行っていると当たり前のように思えるけれど、食欲を満たすための期待感に満ちたすごく楽しい時間であるはずなのです。食べものを売る店とはそんな楽しい時間を過ごす場所で、地面に足を付けた店の特権なのです。
通信と流通が進化していくことで、食べものの選び方もさらに変わっていくことでしょう。でも、私たちの店が目指していることは、食べものの持続的な生産方法を食べることで支持すること、作ることと食べることが同じ地域の中で共存し続けることです。その希望と、食べものを選ぶ欲望を満たすことは、地域の中で地面に足をつけていることと同じ意義の上にあるのではないか、と思うのです。