イベントでデモ販に来てくださるメーカーの人が帰るとき、「ほんとにいいお客さんですねぇ」と異口同音に言います。おすすめすると必ず手に取ってくださるし、話もちゃんと聞いてくださるし、最後にはちゃんと買ってくださる。デパ地下や都会の雑踏でたくさんの場数を踏んできた、おすすめしても振りかえってもらえないことばかりのベテランの人に限って、ため息交じりに褒めちぎるのです。
きっとそうなのだろうと、私たちも思います。どなたも丁寧にお金を出してくださるし、レジでキレて大声を出すなんて考えられない。買い物袋をちゃんと持ってきてくださる方が多くて、持っていない方でもそのままお渡しして嫌な顔なんてしない。あちこちで聞くモンスターのような方がこの店に見えたこともなく、私たちは街の中でかなり恵まれた環境を享受しているのだと日々思っています。
一方でお客さんにとって私たちの対応はどう思われているのでしょうか。「奥さんは丁寧で何でも要求を聞いてくれるけどあの旦那はちょっと…」という風の囁きを耳にして反省するのですが、なにせ馬の耳ですのでちっとも変わりません。気に入らないとそっぽを向いて話をするし、値引きを気分で変えるし、態度が横柄だし、レジを間違えるし。少しはお客さんの身になって改めないといけません。
CAMBIOでは店にお越しになったお客さんに「こんにちは」という挨拶をしています。最近ではほかのお店でも「こんにちは」というところが増えてきましたが、最初のころは「なんでこの店は「いらっしゃいませ」じゃなくて「こんにちは」なの?」と怪訝そうに聞く方もおいででした。単なる挨拶ですが、実はちゃんと意図があります。私たちはお客さんと同じ目線の高さで相対したいのです。
もちろん買っていただくことで店は成り立つのですから、「ありがとうございます」という気持ちを言葉以上に身をもって表しているつもりです。挨拶にこだわるというのもヘンですが、通りすがりの人が「こんにちは」と言葉を交わすように、同じ街で暮らしている者同士というスタンスで向き合いたい。「いらっしゃいませ」だと、売り買いのスタンスに固定されてしまうような感覚になるのです。
つまらないことですが、自分の中のそういう感覚を大事にしたい。作り手は私たちが売ることで成り立ち、お客さんは私たちが選んで運んでくるモノで生活が成り立ち、私たちはモノを買って頂くことで店が成り立つ。その循環がひとつのエリアの中で、お互いの存在を意識できるように成り立つ。これを実現させるためには「いらっしゃいませ」ではなく、やはり「こんにちは」であるべきなのです。