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最近、夕食時になると東京で一人暮らしをしている娘から電話がかかってきます。電話とはいってもLINEの無料通話。スマホのカメラで自分を映しながら喋っているのを、こちらはタブレットを食卓に立ててお互いに相手の顔を見ながら一緒に食べる。食べているものは全然違うけど、一緒のテーブルを囲んでいるようで不思議な光景。未来の夢だったテレビ電話がいまは無料で実現しているのです。
ある日は食事中にLINEをかけてきた娘の部屋には友達も一緒にいて、一緒に話しながら食べているこちらの家族は少し緊張しました。娘にとっては友達も家族も同じように親しい人間だから違和感がないのでしょうが、私たちにとっては初めて会う人と突然一緒に食事をしていることになったわけです。風呂上がりでヨレヨレの部屋着を着ていたオジサンは、突然現れた若い女性に緊張しましたよ。
食事をしながら話している時とは違って、寝っ転がってくつろいでいるときにかかってくると、間の取り方が普段とは違うので何ともおかしな会話になります。ずっと相手を見ているわけでもないから気が付くと他のことに気を取られて、ほったらかしにしてしまうのですね。話すことがあってかけてくる電話とは違って、ただ一緒にいる感覚を求める通信手段って恋愛関係のようでこそばゆいですし。
思えば、電話がなかった私たちの親世代は恋愛とは無縁の人が多かった。それは時代の問題もあるけれど、相手との通信手段が手紙ぐらいしかなかったということもあるはず。大方の家に固定電話が普及していた私たちの世代になると、相手と一晩中電話で話したりするので電話代がかさんで家族から不興を買うようになりました。やがて親子電話という便利なものができて、解消されていったけれど。
今のように顔を見ながら場所を問わずに一晩中話ができて無料だなんて、今の人たちは恵まれているなぁと思うのですが、通信手段が発達しただけ相手との距離感を取るのが逆に難しいのかもしれない。会話だけでなく行動まで通信で把握されるようになってしまい、それがストレスどころか大きな束縛になっている関係もあるらしい。通信は便利になったけれど人間関係も大きく変えてしまったのです。
与太話になりますが、ワタシの場合、恋愛ってのは相手のすべてを知らないからアツくなるものでした。もっと知りたいから一緒に居たいしずっと話をしていたい。その時間が無制限で無料になったり、個人的な行動がSNSでいくらでも見られるようになると、そんな欲求も変わるのでしょう。だから今の人たちの恋愛観を自分たちと比べるのは無理です。自分の親世代のことが分からなかったように。
ついでに暴露しちゃいますが、ワタシがカミさんと初めて個人的なコンタクトをとったのも電話でした。丹念に調べていきなり自宅の番号にかけた。家からかけると会話が全部バレちゃう時代でしたから、家から離れた団地まで車で行って公衆電話からかけた。そしたらお母さんが出ました。別に不審がらずにつないでくれたので、次の日曜日に房総半島を車で一周するお約束を取り付けたわけです。
家に一台しか電話がなかった時代は、電話でヒミツの会話をするのにいろいろな障害を乗り越える必要がありました。受話器を無理やり部屋に引っ張り込むのでコードがビロビロに延びてしまったり、家族に会話が聞こえないようにレコードの音をやたら大きくしたり、笑えるシーンもありました。今はテレビ電話が無料で使えるようになったのですが、やっぱり人間は誰かと一緒に居たいワケですね。
by organic-cambio
| 2018-12-04 16:51
| 店主の雑言
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