街中で八百屋という店はもう残り少なくなっていて、かつて岡谷にあった八百屋もほとんどやめてしまいました。やっていた人が高齢化したという理由もあるのでしょうが、大きくは街の人たちの野菜の買い方が変ったためだと思います。野菜はほかの食べものと一緒にスーパーで、あるいは直売所で。われらが店も野菜だけではないから八百屋とは言えないかもしれないけれど、絶滅危惧種なんですよ。
夏場になるとよく「野菜を置かせてほしい」というお話を頂戴しますが、すべてお断りしています。時には「こんなにいろんな人の野菜があるのになぜダメなんだ!」とお怒りになる方もいらっしゃいます。私たちはできた野菜とお付き合いするのではなくて、作る人やその作り方とお付き合いするので、野菜をいただく際はならず畑を見せていただいた上でお話させていただきます。怒らないでよね。
お怒りになる方は、おそらくこの店を直売所と勘違いされているのでしょう。直売所は野菜を委託で置いて売れた分だけ支払いますが、私たちは前もって発注をしてすべて買い取ります。きっちりお付き合いするためにはこちらが責任を持って売る約束が必要だからです。野菜を並べるのは簡単ですが、保管して鮮度を保って売り切り、利益を出して家賃を払って店を続けるのが八百屋の仕事なんです。
かつて地回りのお兄さんが店をのぞきに来たことがありましたが、けっ!と言って帰っていきました。値札が100g30円とか1束199円ですから、搾ろうったって無理だと思ったのでしょう。食べものの商いなんてそんな金額の積み重ねです。決して華やかではないし儲かりはしないけど、面白いからやってられる。大きく言えば食べものから世界が見えてくる。たかが八百屋だけど面白いんですよ。