私たちの店は野菜売り場が全体の1/3を占めています。一日の仕事はまず野菜や商品を運んでくるところから始まり、店に並べて野菜を保冷庫にしまい、野菜売り場を作ってから加工食品の仕切りと陳列に入っていきます。店を片付ける時もまず野菜を保冷庫にしまい、それからレジの締めに入ります◆一日の仕事は野菜の手入れや管理に費やされることが多く、加工食品は並べてしまえばあとは日付の管理と見切りぐらいのもので、野菜に比べると仕事量はぜんぜん少ない。しかも加工食品は野菜のように一日で萎びることもないし、売れさえすれば確実に粗利を稼いでくれる◆売上げにしても菜っ葉は1袋で250円前後だけれど、ラーメンだって1袋250円ぐらい、パウンドケーキも一切れ250円。ラーメンなら5つぐらい買う人はざらだけど、菜っ葉を5袋買う人は滅多にいません。つまり野菜は手間がかかる割に売上げに寄与しない。でも一日の仕事のかなりの割合に加え、経営する私の意識のかなりの割合も野菜のことが占めているのです◆いろんな野菜がある中でじゃが芋、玉ねぎ、人参は特別な存在です。野菜の基本というかベースというか、この3種類は欠かすことなく店に並んでいます。一年を通じて並べるために季節によって産地が移動し、早春に九州で始まった出荷が初夏に信州に変わり、冬は北海道産が並びます。その季節によって品種や形が変わり、管理の仕方も違う。早春に冬を越した玉ねぎが芽を出し始め、隣には収穫したばかりの瑞々しい新玉ねぎがいるといった具合に、八百屋は野菜で一年中季節を追いかけるのが仕事なのです◆歴史を振り返れば人間が安定して暮らせるようになったのは、農耕を獲得したからだと言われています。不安定な狩猟採集から定住して農耕で食料が得られるようになったのは、野菜や穀物を育てることができたから。たくさん並ぶ加工食品も、原料をたどればすべて野菜や穀物にたどり着きます。魚だって陸地が荒れたら餌が得られなくなって減ってしまう。食べものの連鎖の最初に野菜があるのです◆箱に入っているじゃが芋を見ると、どこか教室の子どもたちのように見えることがあります。それぞれに個性があって、大きなヤツがいれば変わった形のヤツもいる。使いやすいサイズのものが先に選ばれていき小さいヤツだけが残ってしまうとき、隅に寄り固まった連中がなぜか自分の子ども時代の姿に重なることがあります。チェッと毒づきながら石を投げている連中がちゃんと買われていくように、袋に詰めて値段をつけてやるのも八百屋の仕事。てなことやってるから一向に仕事が減らないのかもしれませんが。